運動と発声
「発声」は「呼吸」の一側面です。「発声」は,生命を維持していくために最適化されている「呼吸」パターンを変化させ,外界との酸素や二酸化炭素のやりとり(外呼吸)や,体内でのやりとり(内呼吸)に影響を及ぼす可能性が高く,その方法によっては「プラスの影響」を与えるかも知れません。
友達としゃべりながらジョギングをすると,ものすごく息苦しくなりますよね?
この原因は,酸欠(酸素をうまく吸えないこと)ではなさそうです。
声を出しているとき,私たちは息をあまり吐いていないのです。
つまり,二酸化炭素をうまく吐き出せない状態になっています。
このとき,体内(血液中)の二酸化炭素濃度が高くなります。
これを身体が感知して,もっと呼吸をするよう促すために,息苦しさを感じさせるのです。
では,運動+発声によって生じる「血液中の二酸化炭素濃度の上昇」は,
私たちの身体にどのように影響するのでしょうか?
剣道「掛かり稽古」実施中には,発声の影響により,血液中の二酸化炭素濃度が上昇する。
声を出しながら運動を行う「剣道」にて,最も運動量が高い「掛かり稽古」実施中の呼吸・換気状態を調査しました。
この結果,声を出していない場合と比較すると,呼吸数の低下,換気量の抑制,二酸化炭素の排出量の抑制が観察され,血中二酸化炭素濃度を反映する「呼気終末二酸化炭素分圧」が上昇しました。
これらのことから,声を出しながら激運動を行う剣道実施中には,息がうまく吐き出せず,血液中の二酸化炭素濃度が高まることがわかりました。
(Arikawa H, Terada T, Takahashi T, Kizaki K, Imai H, Era S : Continuous vocalization during kendo exercises suppresses expiration of CO2. International Journal of Sports Medicine, 36(7), 519-525, 2015.)
剣道以外の運動でも,運動中の発声により,血中二酸化炭素濃度が上昇する。
最大運動強度の80%の自転車漕ぎ運動を用いた調査では,剣道掛かり稽古の場合と同じく,運動実施中の発声によって,呼吸数の低下,換気量の抑制,二酸化炭素の排出量の抑制,血中二酸化炭素濃度を反映する「呼気終末二酸化炭素分圧」の上昇が観察されました。
血中二酸化炭素濃度の上昇は,剣道特有の現象ではなく,発声を伴う他の運動でも生じることが明らかになりました。
発声を伴う運動で,脳血流量が増加する。
血中二酸化炭素濃度上昇は,脳血管を拡張し脳血流量を増加させる作用があることが知られています。
発声を伴う自転車漕ぎ運動(最大運動強度の80%と60%)の実施直後の総頸動脈血流量を調査しました。
この結果,80%と60%の双方で総頸動脈血流量が増加しており,脳へ多くの血液が送られていることが明らかとなりました。
その一方で,血中二酸化炭素濃度は,80%では上昇が確認されましたが,60%では上昇傾向に留まりました。
これらの結果から,発声を伴う運動実施によって脳血流量の増加が確認されましたが,その誘因に運動中の発声に伴う血中二酸化炭素濃度上昇が関与しているとは言い切れないことが考えられました。
(有川 一,田下智栄子,中村浩二,高橋哲平,三川浩太郎,寺田知新,渡邉孝士郎,今井 一,惠良聖一 : 発声を伴う間欠的運動は総頸動脈血流量を増加させる-剣道の生理学的特徴の解明に向けた基礎的研究-. 教育医学, 65(3), 192-201, 2020.)
学会発表動画ギャラリー
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